民事執行法の改正が養育費回収に与える影響

2020年4月1日に民事執行法が改正されました。
これによって、養育費の回収が容易になった等のお話もチラホラ耳にしますが、実際手続きがどのように変わって、結果としてどのようなメリットが発生したか、解説します。

まず、結論から先に述べると
財産開示手続きおよび情報取得手続きによって、相手方の財産を把握することが容易となり、これによって何を差し押さえたらいいかわからなかったこれまでに比べ、格段に養育費の回収がしやすくなったのです。

民事執行ってなに?

そもそも民事執行に定められている「民事執行」とは、
強制執行担保権の実行としての競売および民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売(形式的競売)並びに債務者の財産開示の総称をいいます。

要するに民事執行法は、
支払いを約束しているのに支払われない場合に強制的に支払いを実現させるために直接または間接的に必要となる手続きが記載されている法律のことです。

民事執行法と養育費回収との関係

 養育費は、書面で取り決めることが一般的ですが、
中でも強制執行認諾文言付きの公正証書調停調書等に記載された養育費についての取り決めは、
その支払いが滞ったときに、強制的に差し押さえて金銭を回収することが可能です。このときに使う法律が民事執行法というわけです。
 民事執行法は、もちろん養育費以外の場面でも金銭を私法上の請求を実現するために用いられるのですが、ここでは、養育費にフォーカスして民事執行法の改正について解説していきます。

改正までのみちのり

実は、民事執行法はこれまでも改正を繰り返してきました。

1) 平成15年の民事執行法改正
 一度申し立てることで、将来部分の養育費についても差し押さえることができるようになりました。

2) 平成16年の民事執行法改正

 強制執行の方法について、直接強制(相手方の財産をお金に換えてそこから弁済を受ける方法)のほか、間接強制(養育費を払わないなら養育費とは別に支払うべき罰金を上乗せして(間接強制金)払わなければならなくなることを告げて、心理的に支払いを促す方法)も可能になりました。

 このほかにもひとり親を支援すべく母子及び父子並びに寡婦福祉法という法律や民法などでも積極的に養育費を確保することができるように国として取り組みを続けてきています。

今回の改正のポイント

その中で、令和2年4月からの民事執行法改正のポイントは2つあります。
 「財産開示手続き」と「情報取得手続き」です。

財産開示手続きについて

財産開示手続きとは

養育費が払われなくなったとき、お相手の財産を差し押さえて支払いを実現させるためには、裁判所に対して強制執行の申立をする必要があります。
 そして強制執行の申立をするためには、裁判所に対して、お相手のどの財産を差し押さえたい、と明確に特定する必要があります。
 つまり、お相手にどんな財産があるかわからない場合には、強制執行の申立を行うことができないのです。
 離婚してすぐの場合には、お相手の職場や預金口座がわかる場合が多く、その場合には、すぐに強制執行の申立を行うことができます。
しかし、離婚からしばらくして養育費の未払いが発生した場合、お相手がどこの会社に勤めているのかわからない、あるいは、どこの銀行に口座があるか忘れてしまった、銀行はわかるけど口座番号はわからない等、財産の特定ができず、差押えに難航してしまいます。
この時に使用するのが「財産開示手続き」です。
 これは、お相手を裁判所に呼び出して、裁判官に対し、自分はどんな財産を持っているか陳述させるための手続きです。

改正点

1)罰則が強化されました

  財産開示手続きは、裁判所がお相手を呼び出して財産を陳述させるという手続きなので、お相手が来なかったり、あるいは裁判所には来たものの裁判所に対して嘘の事実を陳述したりする可能性があります。
そうした自体を避けるために、従来から罰則規定が設けられていました。
  この罰則規定については、これまで30万円以下の過料(「過料とは行政罰であって、刑事罰ではありません」が定められているのみでした。
しかし今回の改正によって「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を科すことになりました。
  これまでよりも罰則が強化されることによって、手続きの実効性を向上させることが目的です。

2)申立権者が拡大しました

  強制執行の申立をするためには「債務名義」と呼ばれる債権の存在と範囲を公的に証明した文書が必要になります。
そして、財産開示手続きを行うためには、これまでこの債務名義のうち、仮執行宣言付きの判決等、執行証書又は確定判決と同一の効力を有する支払督促について、これらに基づく財産開示手続の申立てを認めていませんでした。つまりこれまでは、公正証書(公正証書に基づいて強制執行を行う際に作成される書面が執行証書です)では財産開示手続きを行うことができなかったのです。
  しかし今回の改正によって、仮執行宣言付判決を得た者や、公正証書によって支払いを取り決めた者も財産開示手続きの申立が可能となりました。

情報取得手続きについて

情報取得手続きとは

上記のとおり財産開示手続きによって開示をされれば問題ないが、この手続きでも、不開示の結果となる割合が少なくない。
そこで、改正法では、養育費の請求をする者からの申立によって、
相手方以外の第三者に対して相手方の財産に関する情報を取得する手続きを新設しました。これが第三者からの情報取得手続きです。

どのような情報を取得することができるのでしょうか

1)不動産情報

  不動産を所有している、しているとしたらその内容等について登記所から取得することができます。
  なお、不動産情報については、システム変更が必要となるため施行は令和3年5月16日頃を予定しています。

2)勤務先情報

  給与、報酬、賞与を支払う者がいるか、いる場合にはその氏名(名称)及び住所という勤務先情報を市町村または厚生年金を扱う団体から取得することができます。
  養育費は将来にわたって支払いが続く債権なので、勤務先を把握することができ、その給与債権を差し押さえることができれば、相手が仕事を辞める等の事情がない限り、毎月確実に支払いをうけることができます。

3)預貯金情報

預貯金があるか、ある場合にはその取り扱い店舗名、預貯金種別、口座番号、残高情報という預貯金情報を金融機関から取得することができます。

4)株式等情報

  お相手名義の上場株式、投資信託受益権、国際等に関する株式等情報を証券会社等から取得することができます。株式等がある場合には、その銘柄および金額または数量の情報を得ることができます。

財産開示手続きとの関係

  • 不動産情報及び勤務先情報を取得した場合には、申立前3年以内に財産開示手続きを実施しておく必要があります(財産開示前置)。
  • 預貯金情報や株式情報取得の場合には、財産開示前置の必要はありません。

手続きの流れ

1)申立

  原則としてお相手の住所地を管轄する地方裁判所に申立を行います。

2)裁判所が情報提供を命じる場合

  裁判所が情報提供の申立を認める場合には、情報提供命令を発令します。これをうけた第三者は、裁判所に対して、情報提供書面を提出し、申し立てた者は第三者から直接同じ書面を受け取るか、あるいは裁判所を通じてその情報を受け取ることになります。

債務者の認識

情報提供命令が発令されたとき、お相手は、どのタイミングでその事実を認識するのでしょうか。

  • 預貯金情報と株式等情報は、お相手に情報提供命令が発布されたことを知らせないうちに、第三者からの情報提供がなされます。
  • 不動産情報・勤務先情報の情報提供命令は、お相手に送達し、お相手に不服申立権を与えています。そして、お相手が不服申立てをすれば、それが退けられ、命令が確定しない限り、効力を生じないこととされています

養育費回収におけるメリット

このように今回の民事執行法の改正によって、養育費の回収が従来よりもしやすくなりました。
1) 公正証書でも財産開示手続きを行うことができるようになった
2) 財産開示手続きの実効性を向上させるような罰則強化がなされた
3) 情報取得手続きによって、お相手の財産を把握することができる可能性がグンとあがった

 養育費はお子様の権利でもあります。
 長年、未払いでお相手についての情報もほとんどないという場合でも諦めず弁護士にご相談ください。


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